身体表現性障害を取り巻く最大の悲劇は、周囲はおろか、時には医療機関からさえも「気のせい」「ストレスによる思い込み」として片付けられてしまう点にあります。ネット上では「芸能人の仮病疑惑」といった無責任なまとめ記事が散見されますが、これは医学的なメカニズムを根底から無視した悪質な誤認にほかなりません。
機能的MRI(fMRI)などを用いた最新の脳科学研究により、身体症状症を発症している患者の脳内では、痛みや不快感を司る大脳皮質や扁桃体、前頭前野の神経回路が過剰に興奮していることが実証されています。つまり、患部の骨や内臓に炎症や損傷が存在しないだけであり、脳のペインマトリクス(痛みの知覚ネットワーク)は実際に「激痛」の信号を受信し続けているのです。
「痛いふりをしている」のではなく、「脳が強烈な痛覚を生み出している」状態であるにもかかわらず、周囲から「気持ちを強く持てば治る」「サボり癖がついた」とラベリングされることは、患者にとって致命的な二次被害となります。特に、幼少期から「弱音を吐いてはいけない」と教育されてきたタレントや、完璧主義で周囲の期待に応えようとする優等生タイプの表現者ほど、身体の痛みを精神力でねじ伏せようとして病態を悪化させてしまうのです。