『白鳥の湖』を鑑賞する上で最も刺激的な謎、それは演出ごとにまったく異なる「ラストシーンの解釈」だ。オリジナルに近い悲劇的結末では、悪魔の企みによって愛を破られたジークフリート王子とオデットが、来世での永遠の結合を求めて湖へと身を投げる。激しい嵐が吹き荒れ、二人の魂が昇天する中、悪魔の魔力は打ち砕かれる。
一方で、ソ連時代を中心に定着したのが、王子が悪魔を破り二人で生き残るハッピーエンドの演出だ。これは体制の検閲を受け、「共産主義的英雄観」に合致する勝利の結末へと人工的に改変された結果であった。王子と白鳥が死を選ぶのか、それとも悪に打ち勝つのか。あるいは悪魔の幻影に惑わされた王子の精神的破滅を描くのか。時代の価値観や演出家の死生観によって結末が変貌する点こそ、この作品が持つ深淵な闇の魅力と言える。