日本における最高行政責任者の法的身分を確認すると、日本国憲法第66条において「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」と明記されており、法律上の唯一の正式名称は「内閣総理大臣」です。内閣法や公職選挙法など、あらゆる法令文書においてもこの6文字のみが法的な効力を持つ名称として使用されます。
では、「首相」と「総理」という言葉はどこから生まれたのでしょうか。そのルーツを辿ると、古代中国の官職制度と明治維新期の近代国家建設の歩みに突き当たります。
「首相」の語源は、古くから君主を補佐して国政を統理する最高位の官職を指した「宰相」にあります。その宰相たちの中で最も序列が高い人物を「首席宰相」と呼んだ歴史があり、これを2文字に短縮した言葉が「首相」です。明治維新後、太政官制を経て1885(明治18)年に内閣制度が創設され、初代の伊藤博文が就任した際、官制上の役職名は「内閣総理大臣」と定められましたが、当時の知識人や言論界は欧州のPrime Minister(第一の大臣)を訳す言葉として、古来の親しみある「首相」「首席宰相」の語をそのまま当てはめました。つまり、「首相」は特定の法律に規定された官職名ではなく、行政の最高責任者を指す一般名詞としての性格を帯びています。
対する「総理」は、「内閣総理大臣」という四字以上の複合語を略したものです。「総理」という言葉自体には「全体を統合し管理する」という意味があり、明治初期には内閣総理大臣のみならず、各省の長官クラスにも使われていた記録があります。内閣制度の成熟に伴い、「内閣総理大臣」の略称として独占的に用いられるようになり、昭和・平成・令和の政権運営を通じて、政治家同士の呼びかけや国民へのアナウンスとして定着していきました。