インフルエンザウイルスは、喉から気管、気管支に至る呼吸器の表面を覆う「線毛上皮細胞」を広範囲に破壊します。解熱して体内のウイルス量が減少しても、傷ついた気道粘膜が完全に再生・修復されるまでには通常2〜8週間程度の期間を要します。
粘膜が剥がれ落ちてバリア機能が低下した気道は、まるで「皮膚にできた擦り傷がむき出しになっている状態」です。そのため、普段なら何でもない冷たい空気、エアコンの乾燥、会話時の空気の出入り、わずかなホコリや香水の匂いといった軽微な刺激にも過剰に反応し、激しい咳反射が誘発されます。この状態は医学的に感染後咳嗽(かんせんごがいそう)と呼ばれ、インフルエンザ罹患後の咳の約60〜70%を占める代表的な要因です。
さらに、感染を契機としてアレルギー性の気道炎症のスイッチが入り、気管支が狭くなってしまう咳喘息を併発するケースも少なくありません。「ウイルスはいなくなったのに気道の火事だけがくすぶり続けている」ことこそが、咳だけがしつこく残る最大の理由です。