脳内でドーパミンが神経伝達物質として機能していることを解明し、ノーベル生理学・医学賞を受賞したスウェーデンの薬理学者アルビド・カールソン。彼の先駆的な知見は、現代の精神薬理学の礎となった。統合失調症や双極性障害の妄想・幻覚を抑え込む抗精神病薬の主たる標的は、脳の辺縁系にあるドーパミンD2受容体の遮断である。
しかし、薬によって長期間にわたり受容体を遮断され続けた脳は、欠乏したシグナルを補おうと受容体の密度を異常に増加させる。いわゆる「受容体過感受性(アップレギュレーション)」の発生だ。飢餓状態に置かれた受容体は、わずかなドーパミンにも過敏に反応し、運動制御を司る線条体で暴走を始める。精神を鎮めるための薬が、長期の時間をかけて運動野のブレーキを破壊していく。生体の精緻な代償機能が引き起こす、皮肉な逆転現象と言える。