イギー・ポップの経歴を語る上で外せないのが、1967年に米ミシガン州デトロイトで結成された伝説的バンド、ザ・ストゥージズ(The Stooges)です。彼らが1969年に発表したデビュー作『The Stooges』や翌年の『Fun House』は、後に到来するパンク・ロックの原型を完全に作り出していました。
当時のライブハウスやフェスでのステージングは、音楽史における「過激伝説」の宝庫として今も語り継がれています。
観客に向かってステージからダイブする「クラウドサーフィング(客席への飛び込み)」を世界で最初に行った人物の一人とされ、客席から投げつけられたビール瓶の破片で胸を切り刻み、血まみれのまま絶叫するパフォーマンスは日常茶飯事でした。ピーナッツバターや生肉を自らの身体に塗りたくり、ステージ上で意識を失うまで暴れ回る姿は、当時の大人たちに恐怖を与え、若者たちを熱狂させました。
しかし、こうした過激さは単なる無軌道な暴力衝動ではありませんでした。自伝『I Need More』のなかでイギーは、幼少期にトレーラーハウスで育った貧困体験や、当時のアメリカ社会にはびこっていたヒッピー文化の「偽善的な平和主義」に対する強烈な違和感が、身体を張った原始的な表現へと向かわせたと述べています。自らの肉体を極限まで痛めつけることで、観客と演者の境界線を破壊しようとした試みでした。