かつて昭和から平成初期のプロ野球では、各球団に3〜4人の規定投球回到達者が存在し、リーグ全体で30名以上が名を連ねる光景は珍しくありませんでした。しかし現在、両リーグ合わせてわずか10数名、シーズンによっては球団内で規定到達者がゼロというケースも発生しています。この激変はなぜ生じたのか。現場取材とセイバーメトリクス分析から、3つの明確な要因が浮き彫りになります。
1. 「球数100球」と「3巡目の壁」による早期降板
第一の理由は、トラッキングデータ普及に伴う交代基準の厳格化です。統計上、同一の対戦相手が一試合の中で3打席目に入ると、打者の被打率・被長打率が跳ね上がる現象(タイムズ・スルー・ジ・オーダー=TTOP)が広く知られるようになりました。ベンチは先発投手が好投していても、投球数が85〜100球に達した段階、あるいは打順が3巡目を迎える5回〜6回途中でスパッとリリーフへスイッチする戦術を徹底しています。
2. ブルペンの超分業化と「勝ちパターン」の固定
第二の理由は、中継ぎ・抑えの投手分業制の高度化です。「7回の男」「セットアッパー」「クローザー」へとバトンを渡す勝利の方程式が確立された結果、先発投手が7回・8回を投げること自体の戦術的メリットが低下しました。現場の投手コーチ陣からも「先発に無理をさせて失点するリスクを背負うより、フレッシュな球威あるリリーフを小刻みにつぎ込む方が勝率は高い」という冷徹な計算が共有されています。
3. コンディショニング重視と「登録抹消ローテ」の常態化
第三の理由は、選手の故障予防とコンディション維持を最優先するマネジメントの浸透です。特に近年は、先発投手を登板翌日に一度出場選手登録から抹消し、10日後に再登録する「中9日〜中10日」の変則運用がトップ投手に対しても積極的に行われます。登板ごとの出力を極限まで高める代償として、年間登板数が18〜20試合程度に抑制され、登板した全試合でハイクオリティ・スタート(7回自責点2以下)を達成しても規定投球回に届かないという構造的矛盾が生じています。