国民審査の現場で最も多くの有権者が直面する疑問が、「何を基準にして×をつけるべきか」という点です。最高裁判所判事は個別の政治信条を街頭で訴えることはないため、その判断材料は過去に執筆した「判決文」「補足意見」「反対意見」、そして法廷で下した判断そのものに集約されます。現代の国民審査において、判断の分水嶺となる主な争点は次の通りです。
① 選択的夫婦別姓・家族観をめぐる憲法判断
民法750条の夫婦同姓規定が「婚姻の自由」や「法の下の平等」を保障する憲法に違反するかどうかは、最高裁大法廷で繰り返し争われてきました。規定を「合憲」として国会の法改正論議に委ねる立場をとる裁判官がいる一方で、「違憲」として個人の尊厳を優先すべきだとする反対意見を明記する裁判官もいます。家族観や個人の権利保護を重視するかどうかは、有権者にとって極めて明確なリトマス試験紙となります。
② 国政選挙における「1票の格差」への姿勢
衆議院・参議院選挙における1票の格差訴訟では、人口減少と都市集中が進む中で「違憲」「違憲状態」「合憲」の判断が分かれます。選挙無効にまで踏み込む厳しい姿勢を示す判事もいれば、国会の裁量権を広く認めて現状を追認する判事も存在します。主権者の権利をどこまで厳格に守ろうとしているかが如実に表れる分野です。
③ 個人の尊厳と少数者の権利保護
近年では、性同一性障害特例法における生殖能力をなくす手術要件に対する違憲決定や、同性婚の法制化をめぐる議論、プライバシーやデジタル空間における表現の自由など、社会的な少数者(マイノリティ)の権利救済に司法がどれだけ積極的(司法積極主義)か、あるいは慎重(司法消極主義)かという姿勢が問われています。