日本中を戦慄させた予言詩の根源は、ノストラダムスが編纂した『予言集(百詩篇)』の第10巻72番にあります。まずは、日本で広まった扇情的な解釈を排し、文献学的に忠実な直訳を確認してみましょう。
「1999年、7の月/空から恐怖の大王が来るだろう/アンゴルモアの大王を蘇らせるために/その前後の期間、マルスは幸福の名のもとに君臨するだろう」――これが原詩の大意です。当時、メディアや解説書は「恐怖の大王=核ミサイル、巨大隕石、あるいは超破壊兵器」「アンゴルモア=モンゴルのアナグラム(大王=チンギス・ハン)、あるいは破滅の魔王」と結びつけ、1999年7月に地球が滅びると煽り立てました。
しかし、ルネサンス期の天文学・文献史料を紐解くと、恐怖の大王の元ネタは極めて現実的な事象を指していたことが判明しています。欧州の研究機関による文献解析では、当時の「空から降る大王(Grand Roy deffraieurs / du ciel)」は、1999年8月11日にヨーロッパ全土で観測された「皆既日食」、あるいは占星術における凶兆の星配置を詩的に暗喩した表現であるという見解が有力です。ノストラダムスは暦のずれ(ユリウス暦とグレゴリオ暦の換算)を含めて1999年前後に天体イベントを配置しており、破滅的な超常現象を予言したわけではありませんでした。