なぜ華々しい成功を収めた芸能人が、境界性パーソナリティ障害の病理に苦しむことになるのか。精神医学および家族社会学の知見では、発症の原因は「生まれ持った感情調節の生物学的脆弱性」と「幼少期の養育環境における情緒的トラウマ」の相互作用によって生じると説明されます。
厚生労働省の検討会資料や国内外の臨床研究が示す通り、BPD患者の約7割以上が幼少期にネグレクト、身体的・心理的虐待、または情緒的な無効化(感情を否定され続ける体験)を経験しています。特に日本の芸能界において歴史的に散見されるのが、昭和・平成期から続く「ステージママ文化」や「毒親(ドクオヤ)問題」に起因する母娘の共依存関係です。
幼い頃から親の経済的欲求や自己実現の道具として芸能活動を強いられ、「良い成績を出さなければ親から愛されない」「ありのままの自分には価値がない」という強迫観念を刷り込まれた子どもは、健全な「心理的バウンダリー(自他の境界線)」を形成できません。親の顔色を病的なまでに伺う生活は、やがて他者全般に対する病的な見捨てられ不安へと姿を変えます。
さらに、芸能界という環境そのものが、この病理を増幅させる危険な温床となり得ます。人気や視聴率といった数字によって他者から値踏みされ、昨日まで絶賛してくれたスタッフやファンが一夜のスキャンダルで手のひらを返して去っていく過酷な競争社会は、当事者の「内なる見捨てられ恐怖」を容赦なく刺激します。愛されたいという渇望と、裏切られることへの底知れぬ恐怖が交錯した結果、周囲を試すような衝動的言動に走ってしまう構図が浮かび上がります。