坂東玉三郎が国の重要無形文化財「歌舞伎女方」の保持者、すなわち人間国宝に認定されたのは2012年(平成24年)のことです。当時62歳という年齢での選出は、歴代の歌舞伎女方として極めて異例の早さであり、伝統芸能界に大きな衝撃を与えました。
文化審議会が下した決定的な認定理由は、「古典歌舞伎の伝統的な女方の技法を高度に体得し、格調高く気品に満ちた舞台成果をあげていること」に集約されます。『京鹿子娘道成寺』の白拍子花子や『壇浦兜軍記』の阿古屋といった難度の高い大役を見事に演じ分け、伝統を継承しながらも現代に通じる洗練された美を確立した点が極めて高く評価されました。
さらに、三味線・琴・胡弓の三曲を舞台上で生演奏する阿古屋役のように、卓越した音楽的技量と精神性を兼ね備えている点も審査員の満場一致を後押ししました。年功序列や血統が重んじられがちな歌舞伎界において、純粋な「芸の力」だけで国の最高栄誉をもぎ取った瞬間でした。