杉本真人『吾亦紅』はなぜ涙を誘うのか?母への後悔と名曲の真実

杉本真人『吾亦紅』はなぜ涙を誘うのか?母への後悔と名曲の真実

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ネット上の言説やカラオケファンの間で、今なお頻繁に見受けられる大きな誤解が「『吾亦紅』は杉本真人が自身の母親に向けて自分で作詞した歌である」という思い込みです。

実際には前述の通り、作詞はちあき哲也の手によるものです。もし杉本自身がペンを執っていたならば、照れや生々しすぎる感情が邪魔をして、客観的な芸術作品としてここまで研ぎ澄まされた言葉にはならなかったかもしれません。杉本の心の内にあるドロドロとした悔恨を、盟友であるちあき哲也という天才詩人がフィルターとなって受け止め、美しい旋律に乗る言葉へと再構築したからこそ、個人的な体験でありながら誰もが我が事として共鳴できる普遍性を獲得しました。

また、2007年のNHK紅白歌合戦初出場を巡るエピソードにも、知られざるドラマがあります。当時、紅白は若年層向けの演出やポップス化を推し進めており、58歳の演歌・歌謡系シンガーソングライターが初出場を果たすのは極めて異例の抜擢でした。

本番のステージで杉本は、派手な演出を一切拒否し、スタンドマイクの前にアコースティックギターを抱えて一人立ちました。報道陣の取材に対し、後に本人が明かしたところによれば、「あのステージでは、客席の向こうに母ちゃんの顔しか見えていなかった。歌い終わった後、足が震えて楽屋に戻るのもやっとだった」と語っています。商業的なパフォーマンスを超えた「死者との対話」が公共の電波に乗った瞬間であり、その気迫が視聴者の心を激しく揺さぶったのです。

井上 凛
著者

井上 凛

心身ともに健康で持続可能なライフスタイルをテーマに、最新のウェルネストレンドを発信中。