調理科学以前に、包丁を入れる段階で勝負の半分は決まっています。食肉のプロが口を揃えて強調するのが、「豚ももブロックの繊維の方向を見極め、繊維を短く断ち切るように刃を入れる」という下処理の鉄則です。
スーパーに並ぶ内ももブロックをよく観察すると、肉の表面に一定の方向(左右や斜め)へ平行に走る筋目(筋繊維の束)が確認できます。この繊維に沿って平行に切ってしまうと、長く強靭な繊維がそのまま口の中に残り、硬さや噛み切りにくさを強調させてしまいます。必ず「繊維の流れに対して直角(90度)に包丁を入れる」ことで、繊維が細かく分断され、加熱後も歯がスッと入る柔らかさを実現できます。
また、ブロック肉の表面にある薄い白膜や筋には、包丁の先で数ミリ間隔の細かな切れ込みを入れる「筋切り」を施します。さらに、フォークを使って肉全体を裏表数十カ所刺しておくことで、筋組織が物理的に破壊され、漬け込み液が芯まで浸透しやすくなる下地が完成します。