非結核性抗酸菌症、とりわけ日本国内の症例の約8割を占める肺MAC症(マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス症)について、医療現場では「完治(根治)」という言葉を慎重に扱います。結核菌と異なり土壌や水道水などの生活環境中に普遍的に存在する菌であるため、一度菌が消えても再感染するリスクがゼロではないからです。
しかし、医学的な観点において「治った」状態、すなわち喀痰培養検査での排菌陰性化が1年以上持続し、自覚症状やCT画像上の陰影が劇的に改善した状態を達成する患者は数多く実在します。統計的な治る確率(初期治療による排菌陰性化率)は、クラリスロマイシンを中心とする3剤併用療法をガイドライン通りに完遂した場合で約60〜70%と報告されています。
残りの約3割は菌が消えにくい難治例や再発例となりますが、それでも病気の進行速度を極めて緩徐に抑え込み、天寿を全うするまで自立した生活を維持できるケースは少なくありません。「一度かかったら終わり」というネット上の極端な言説に惑わされず、医学的な到達目標を正しく把握することが第一歩となります。