半魚人の造形美と恐怖のルーツを辿ると、古代の宗教神話と近代ホラー文学という2つの大きな源流に行き着きます。
古代の神格化:オアンネスとダゴン神
紀元前3世紀のバビロニアの神官ベロッソスが記した歴史書には、ペルシャ湾から現れて人類に文字や農耕、法律を授けたとされる半人半魚の神「オアンネス(Oannes)」が登場します。頭部に魚の頭被りを載せ、魚の尾の奥に人間の足を持っていたとされるオアンネスは、怪異ではなく「文明の授受者」として崇められていました。また、古代セム族の豊穣の神「ダゴン(Dagon)」も、後世において魚の神として解釈されるようになり、水生生物と知性を併せ持つ存在の原型となりました。
近代コズミック・ホラーの金字塔:クトゥルフ神話の「深きものども」
文明神としての半魚人を「おぞましい侵略者」へと決定的に塗り替えたのが、怪奇幻想作家H.P.ラヴクラフトが1931年に執筆した傑作中編小説『インズマスの影(The Shadow over Innsmouth)』です。
本作に登場する「深きものども(The Deep Ones)」は、海底都市イハ=ントレイに棲まう不死の水生種族であり、以下のような生理的特徴を持ちます:
- 灰緑色の滑らかな皮膚と白い腹部、首筋の波打つエラ
- まばたきをしない巨大な突起した眼球
- 陸上では前かがみでピョコピョコと跳ねるように歩行する
- 人間の村落(インズマス)と交易を行い、黄金と引き換えに人間と交配して「混血種」を増殖させる
ラヴクラフトが描いた「年老いるにつれて徐々に魚のような顔つき(インズマス面)へと変貌し、最終的に海へと帰還する」という遺伝的変容の恐怖は、近代の半魚人モンスター設定の礎となり、後のホラーゲームやサブカルチャーに決定的な影響を与えました。