多くのウエイトトレーニング解説では「肩幅を広げるには三角筋中部をとにかく追い込め」と強調されます。しかし、機能解剖学の視点から見ると、三角筋を単独のパーツとして孤立させて過剰に酷使することには大きな盲点が存在します。
最大の誤解は、「外転動作の最初から最後まで三角筋だけで動かしている」という錯覚です。外転運動の初期(0度〜約30度)は、三角筋のモーメントアーム(回転のテコ比率)が極めて不利な角度にあり、主動作筋として立ち上がるのはインナーマッスルの棘上筋です。三角筋中部が力学的に最大のトルクを発揮できるのは外転60度〜90度付近です。それにもかかわらず、初動から無理に三角筋の力だけで反動を使ってダンベルを振り上げようとすると、棘上筋腱に過度な剪断ストレスが集中し、微細断裂を招くリスクが跳ね上がります。
また、三角筋の酷使によって筋膜やトリガーポイントが硬化すると、付着部である上腕骨外側の三角筋粗面付近に牽引痛が発生したり、肩甲帯全体の滑走性が低下して四十肩・五十肩に似た可動域制限を併発します。肩の痛みを「筋肉痛だろう」と放置してストレッチを怠ると、上腕骨頭の前方偏位を固定化させ、結果として慢性的な肩関節不安定症を招いてしまう点に留意しなければなりません。