料理レシピサイトやSNS(X・知恵袋など)には無数のイワシ調理テクニックが溢れていますが、現場の板前や水産関係者の視点から見ると、逆効果になりかねない誤った俗説が散見されます。
「塩を振ってから1時間以上じっくり置くと身が締まる」という情報はその典型です。青魚を締め物(酢じめ)にする場合は脱水のために長時間置くことがありますが、塩焼きにおいて30分以上の塩析を行うと、身の細胞組織が過度に収縮して水分が抜けすぎ、加熱時に身がパサパサに硬化してしまいます。東京・神田の老舗海鮮酒場に立つ熟練の焼き場担当者は、取材に対し次のように現場の実情を語っています。
「家庭でやりがちな一番の間違いは、塩を振るタイミングと拭き取りの甘さです。振ってすぐ焼けば生臭い水が身の中で沸騰して全体に嫌な臭いが回りますし、逆に長く置きすぎればせっかくのジューシーな脂が死んでしまいます。塩を振って正確に15分、汗をかいたドリップを完璧に拭き取る。これだけで高価なグリルを使わなくても焼き上がりの味は激変します」(海鮮割烹料理長談)
また、「皮が破れないように小麦粉を薄く叩いて焼く」というライフハックも注意が必要です。ムニエルや蒲焼きには最適ですが、塩焼き本来の純粋な香ばしさと魚油の風味を楽しみたい場合、小麦粉の層が魚の脂と混ざり合ってペースト状になり、塩焼き特有の軽やかな食感を損なってしまう落とし穴があります。