はやり目を巡っては、インターネットや社内の噂話で多くの誤解が蔓延しています。最も危険な誤謬と、実務上で知っておくべき盲点を検証します。
誤解1:「白目の充血が引いて目やにが減れば、もう他人にうつらない」
これは感染拡大を引き起こす最大の誤解です。アデノウイルスは、自覚症状が治まりかけた「治りかけ」の時期であっても、結膜から長期間にわたってウイルス粒子が排出され続けています。日本眼科医会の学術知見でも、発症から約2週間は微量のウイルスが涙や手指を介して伝播する能力を残していることが証明されています。「見た目が綺麗になったから」と自己判断で出社し、オフィスの共有複合機や給湯室を使った結果、同僚に感染を広げてしまう事例が頻発しています。はやり目の治りかけ出社基準は、本人の主観ではなく、眼科医のスリットランプ(細隙灯顕微鏡)検査によって「角膜および結膜の炎症が消失し、感染性がなくなった」と客観的に認められた瞬間です。
誤解2:「会社への報告義務はないから黙っていれば出社できる」
「休むと評価が下がる」「有給を使いたくない」と、感染を隠して出社を企てるケースが見られます。しかし、労働契約には信義則上の付随義務が存在し、集団感染の危険がある重篤な感染症を隠して就労することは、企業の正常な業務運営を著しく阻害する背信行為とみなされます。万が一、隠蔽出勤によって職場クラスターが発生し業務停止や同僚への実害が生じた場合、就業規則違反による懲戒処分の対象となるばかりか、民法上の不法行為責任を問われる法的リスクすら存在します。眼科で確定診断または強い疑いを告げられた時点で、速やかに会社へ報告する義務があると考えなければなりません。
誤解3:「眼科に行けば即座に『治癒証明書』を無料で発行してもらえる」
学校提出用の「意見書」は定型様式があり小児医療の一環として安価に処理されることが多いですが、一般労働者が会社に提出する「治癒証明書」や「診断書」は、健康保険が適用されない自由診療(全額自己負担)です。費用相場は医療機関によって異なり、1通あたり2,000円〜5,000円前後の実費が発生します。
さらに現在、多くの眼科専門医が「アデノウイルスの完全な体内消失を確定するリアルタイムPCR検査等をルーチンで行うことは困難であり、医学的に『100%治癒した』と証明する書類の発行は困難」との見解を示しています。そのため、医師によっては「治癒証明書」という名称ではなく「感染の恐れが低くなったため就業可能と判断する」という就業許可の診断書や通院証明書の発行にとどめる医療機関が増加しています。会社側が過度な「完全治癒の確約」を要求していないか、事前に人事と医師双方の意向を擦り合わせる必要があります。