文学ファンにとって6月29日は、世界中で愛読され続ける児童文学『星の王子さま』の作者、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの誕生日にちなむ星の王子さまの日由来として親しまれています。1900年6月29日、フランス・リヨンの名門貴族の家に生まれた彼は、作家であると同時に過酷な郵便飛行航路を飛ぶプロのパイロットでした。「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えない。かんじんなことは、目に見えないんだ」という名言は、砂漠への不時着や死線をくぐり抜けた彼自身の手記から紡ぎ出された、人間の尊厳への祈りそのものです。
一方、日本の食卓に欠かせない伝統食に光を当てた佃煮の日には、戦国時代を揺るがした大事件の生々しい記憶が刻まれています。全国調理食品工業協会が2004年に制定したこの記念日、日付の由来は佃島の氏神である住吉神社の鎮座祭礼日(正保3年6月29日)にあります。しかし、その根底にあるのは1582年「本能寺の変」直後の徳川家康による命がけの逃避行「神君伊賀越え」でした。
織田信長横死の報を受けた家康が窮地に陥った際、摂津国佃村(現在の大阪市西淀川区佃)の庄屋・森孫右衛門ら漁民が機転を利かせ、漁船を調達して神崎川の脱出を支援。その際、兵糧として差し出されたのが、小魚を塩や醤油で煮詰めた独自の保存食でした。この献身に深く感謝した家康は、後に江戸幕府を開いた際、佃村の漁師33名を江戸に招いて干潟を下賜。そこが「佃島」となり、保存性に優れた「佃煮」が全国へと広まる起点となったのです。一見何の共通点もない文学と伝統和食が、極限状況における人間の知恵という共通項で結ばれている点は実に興味深い符合です。