焼酎を使った渋抜きの成否を分けるのは、柿の内部で起きる生化学反応の理解です。柿の渋みの正体は、果肉の細胞内に存在する水溶性タンニン(カキタンニン)です。これが口内の唾液に溶け出すことで、舌のタンパク質を収縮させ、強烈な収斂味(しゅうれんみ・渋み)として知覚されます。渋を抜くとはタンニンを果実から消し去ることではなく、「水溶性タンニンを不溶性タンニンへと化学変化させ、舌で味を感じさせなくする」現象を指します。
柿にアルコール(エタノール)が付着すると、果実の呼吸が制限され、果肉細胞内でアセトアルデヒドが生成されます。このアセトアルデヒドがタンニン同士を結びつける架橋剤となり、タンニンがポリマー化して巨大化することで水に溶けなくなります。これを「タンニンの不溶化」と呼びます。この生化学反応が途中で止まってしまうと、「何日置いても渋いまま」という事態に直面します。失敗を引き起こす決定的な原因は主に以下の3点です。
第一にアルコール度数の不足です。一般的な甲類・乙類焼酎(25度)や日本酒(15度前後)を使用すると、果実表面での揮発とヘタからの吸収量が足りず、アセトアルデヒドの生成量が臨界点に達しません。第二にビニール袋の密閉不良による空気(酸素)の混入です。酸素が十分に存在する環境では通常の好気呼吸が続いてしまい、アセトアルデヒドを生成する嫌気呼吸へのシフトが起きません。そして第三が保存場所の温度が低すぎることです。10℃を下回る冷蔵庫や冷え込む屋外に置くと酵素活性が著しく低下し、反応が完全に停止してしまいます。