ここで、ネット上のQ&A掲示板や受験生ブログでよく見られる「致命的な勘違い」を正しておかなければなりません。それが「分留の段数を増やして何回も繰り返せば、どんな混合液でも純度100%まで綺麗に分けられる」という思い込みです。
実は、エタノールと水の混合液をどれほど精密な蒸留塔で分留しても、エタノールの純度は「約95.6重量%(体積比で約96.5%)」で頭打ちになります。それ以上はどれだけ加熱しても、気体の中にエタノール95.6%と水4.4%が完全に同じ比率で蒸発してしまうため、分留では絶対にこれ以上分離できなくなります。この現象を化学用語で共沸(アゼオトロピー)と呼び、その特異な混合物を共沸混合物と言います。
薬局などで売られている「無水エタノール(純度99.5%以上)」は、通常の分留だけで作られたものではありません。受託蒸留メーカーや化学プラントでは、ベンゼンやシクロヘキサンといった第3の物質(エントレイナー)を微量に加えて水だけを共沸させて追い出す「共沸蒸留」や、水分子だけを通す特殊なゼオライト膜(膜分離技術)を組み合わせることで、初めて「95.6%の限界壁」を突破しています。
単なる教科書知識として分留を暗記していると、「沸点が違えば完全に分かれる」と過信してしまいますが、分子同士の引き合う力(水素結合など)が作用する現実の化学の世界にはこうした境界線が存在します。この共沸の概念を知っているかどうかが、高校化学から実務応用化学へと知見をステップアップさせる大きな分岐点となります。