医療現場と介護現場の摩擦が最も起きやすいのが、「どこまでが介護士に許され、どこからが看護師にしか許されない医療行為なのか」という境界線です。医師法第17条および歯科医師法第17条、保健師助産師看護師法第31条により、無資格者による医業は厳格に禁止されています。
しかし、在宅療養の現場では日々のこまごましたケアが発生します。2005年およびその後の厚生労働省通知(医政発第0726005号等)によって、原則として医行為ではないと整理された項目と、依然として医療職にしか許可されない行為を整理しました。
【介護職員(訪問介護員)ができること(原則非医療行為)】
- 爪切り・爪ヤスリ:爪周囲に化膿や炎症がなく、糖尿病などの重篤な合併症がない場合の爪切り。
- 体温・血圧測定:水銀柱・電子血圧計による測定、自動血圧測定器でのバイタルチェック。
- パルスオキシメーターの装着:動脈血酸素飽和度(SpO2)の数値確認。
- 軽微な傷の処置:ガーゼ交換、火傷や擦り傷に対する市販軟膏の塗布、湿布の貼付。
- 点眼薬の点眼、内服薬の内服介助:一包化された薬の服薬確認、舌下錠の投与補助。
- 座薬の挿入補助・グリセリン浣腸(市販薬):肛門部への座薬挿入(病状が安定している場合)。
【介護福祉士が「一定の研修」を修了した場合にのみ特例でできること】
2012年の「社会福祉士及び介護福祉士法」改正により、登録研修機関での実地研修等を修了した認定介護福祉士等は、医師の指示と看護師との連携のもとで以下の特定行為を行うことができます。
- 喀痰吸引:口腔内、鼻腔内、および気管カニューレ内部の吸引。
- 経管栄養:胃ろう・腸ろう、または経鼻経管栄養の注入確認・滴下速度管理。
【訪問看護師(医療従事者)にしかできない専門医療処置】
- 静脈内注射、点滴の針刺し・薬剤管理:末梢静脈ラインの確保、CVポートや中心静脈栄養(IVH)の管理。
- 褥瘡(床ずれ)の本格的な外科的処置:デブリードマン(壊死組織除去)、深部創傷の無菌処置。
- 尿道留置カテーテルの交換・管理:バルーンカテーテルの挿入および定期交換。
- 人工呼吸器の設定変更・トラブルシューティング:気道内圧のモニタリングと緊急時処置。
- 麻薬を用いた持続皮下注射・疼痛管理:緩和ケアにおける医療用麻薬ポンプの管理。
「たかが湿布を貼るだけ」「軟膏を塗るだけ」と家族が思っても、皮膚に感染症や褥瘡の兆候がある場合、訪問介護員は勝手に判断して塗布することができません。この境界線を知らない家族から「不親切だ」と理不尽なクレームが事業所に寄せられるケースが絶えません。安全な在宅医療には、看護師と介護福祉士の役割比較を客観的に認識することが不可欠です。