とんかつの断面がピンク色に見えると「火が通っていない」と直感しがちですが、実は加熱が完了していても赤みが残る現象には明確な科学的理由が存在します。その鍵を握るのが、筋肉組織に含まれる「マイオグロビン」というヘムタンパク質です。
豚肉に含まれるマイオグロビンは、加熱温度によってその構造と色合いを変化させます。肉のタンパク質は約60℃前後から凝固を始め、食中毒菌が死滅する温度域に達しても、マイオグロビン自体が完全に変色して灰色・白色化する温度(約68℃以上)には達していない状態が生まれます。つまり、「殺菌に必要な熱は通っているが、肉汁を閉じ込めたまま肉が最も柔らかくジューシーな状態」をキープすると、結果として鮮やかなピンク色が残る仕組みです。
特に新鮮な上質豚肉ほどマイオグロビンの含有量が多く、プロが絶妙な火加減で仕上げた場合、中心部が美しいロゼ色に保たれます。見た目が赤みを帯びていること自体が、直ちに生焼けを意味するわけではありません。