道場六三郎氏の料理人人生は、決して平坦な道のりばかりではありませんでした。石川県の山中温泉に生まれ、10代で料理の世界に飛び込んだ道場氏は、京都や神戸、東京の名だたる料亭で修行を重ねました。しかし、旧態依然とした徒弟制度や「出汁の引き方はこうでなければならない」という固定観念に常に疑問を抱き、独自のスタイルを模索し続けました。
1971年に『銀座 ろくさん亭』を開業した際も、フォアグラやキャビア、マヨネーズを日本料理に大胆に取り入れ、同業者から「邪道」「あんなものは和食ではない」と激しい批判を浴びた過去があります。それでも自らの舌と客の笑顔を信じて味を磨き続け、やがて『料理の鉄人』でその実力を全国に証明してみせました。
そんな孤高の挑戦を陰で支え続けたのが、最愛の妻・照子さんでした。照子さんは店の経理や接客を切り盛りし、料理に没頭する道場氏を公私にわたって献身的に支え抜きました。2014年に照子さんが先立たれた際には深い喪失感に見舞われましたが、娘たちや信頼する弟子たちの支えを受け、料理への情熱を再び燃え立たせました。現在の道場氏の穏やかな笑顔の奥には、愛する家族への深い感謝と、苦難を乗り越えてきた不屈の料理人魂が宿っています。