2014年8月5日早朝、神戸市中央区の理研CDBに隣接する先端医療センター内で発見された笹井芳樹氏の手荷物や秘書の机には、複数通の遺書が整然と残されていました。宛先は小保方晴子氏、理研幹部、研究室のスタッフ、そして家族宛てでした。
当時、報道各社および関係者の証言によって明らかになった小保方氏宛ての遺書には、世間の激しい批判から彼女を庇い、研究者としての再起を促す痛切な言葉が刻まれていました。
「あなたのせいではない」「新しい人生を歩んでください」「STAP細胞を必ず再現してください」
このメッセージは、共同執筆者として論文作成の指導にあたった笹井氏が、指導的立場としての全責任を一身に背負い込みつつ、精神的に崩壊寸前だった若手研究者へ向けた最後の優しさであったと受け止められています。自らの命を絶つ直前であっても、科学の可能性を完全には否定せず、相手を責める言葉は一切含まれていませんでした。
一方、理研の首脳陣や運営幹部宛ての手紙には、次のような趣旨が記されていました。
「世間からの批判やプレッシャーに耐えかねた」「理研やCDBに多大な迷惑をかけたことを深くお詫びする」「残された研究室のメンバーや若い研究者たちが今後も研究を続けられるよう、どうかよろしくお願いしたい」
遺書全文の公的な一括公開はプライバシーおよび捜査上の観点から行われていませんが、流出した断片や関係者取材を通じて浮かび上がったのは、自らの命をもって事態の幕引きを図ろうとした責任感の強さと、愛する研究室の存続を願う悲痛な叫びでした。