『夫婦善哉』の歌詞を深く読み解くと、大阪ミナミの歴史的な街並みと、無頼派作家・織田作之助が描いた短編小説『夫婦善哉』の精神が随所に息づいていることが分かります。
舞台の核となるのは、大阪市中央区難波に実在する法善寺横丁です。石畳の細い路地、水掛不動(西向不動明王)に柄杓で水をかける参拝客の足音、そして軒を連ねる割烹や居酒屋の灯り。吉岡治の詞は、この情緒ある空間を背景に、頼りなくも愛おしい男性と、彼を包み込む女性の一途な心理を鮮明に描き出しています。
名物である「夫婦善哉」は、1人前を2つのお椀に分けて提供される甘味処のぜんざいであり、「離れられない夫婦の縁」や「分け合う喜び」の象徴です。歌詞の中では、単に甘い関係を描くのではなく、苦労や世間の風当たりの冷たさを分かち合いながら生き抜く覚悟が表現されています。雨に濡れる路地裏の情景描写は、人生の苦難とそこにある小さな幸福のコントラストを際立たせる見事な舞台装置として機能しています。