1993年、名古屋の松田ボクシングジムから誕生した世界王者・薬師寺保栄。その華々しいキャリアの陰で起きたのが、熊本の繁華街でのトラブルだった。地方都市の一角で発生したいざこざは、本来であればスポーツ紙のベタ記事として処理される程度の出来事だったかもしれない。しかし、当時の日本中が彼の一挙一動に注目していた。
カメラのフラッシュが夜の街を照らし出し、ワイドショーは連日のように「王者の失態」を報じた。ボクシングという命がけの競技に人生を賭ける男たちの日常は、あまりにも容易くゴシップの消費期限に乗せられてしまったのだ。事件・スキャンダル報道の波は、瞬く間に本人の意図を超えた虚像を作り上げていった。