京都・烏丸御池の静かな通りに佇む「本家尾張屋 本店」の敷居を跨ぐと、都の歴史そのものが凝縮されたような凛とした空気に包まれる。同店の起源は尾張国(現在の愛知県)から菓子司として京都に移り住んだ1465年(寛正6年)に遡る。江戸時代中期に蕎麦切りが広まると、禅寺が蕎麦の製粉や製麺を菓子司に依頼していた歴史的背景から蕎麦処としての歩みを本格化させ、大本山相国寺や宮内庁(旧宮内省)の御用達として確固たる地位を築き上げた。
長きにわたり人気が衰えない最大の理由は、伝統を形骸化させず、日々の味と空間の質を研鑽し続けている点にある。蕎麦の命ともいえる水には、敷地内の井戸から汲み上げる比叡山系の清らかな伏流水を使用。軟水特有のまろやかさが、厳選された国産蕎麦粉の香りや、利尻昆布と目近節・うるめ節・鯖節から丁寧に引いた黄金色の上品な出汁を極限まで引き立てている。
さらに、暖簾を守る歴代当主が「古いものを守るために、常に革新的であれ」という家訓を実践し、菓子司の原点を今に伝える名菓そば餅と本格蕎麦の両輪で独自のブランド価値を守り続けていることが、時代を超えて人々を惹きつける源泉となっている。