「I Can't Make You Love Me」を手掛けたのは、ナッシュビルの名ソングライターであるマイク・リード(Mike Reid)とアレン・シャンブリン(Allen Shamblin)のコンビです。この不朽の名作が誕生したきっかけは、きらびやかなロマンスではなく、地方新聞の警察・裁判記録欄に掲載された日常の小さな事件記事でした。
記事に書かれていたのは、酒に酔って交際相手の車に発砲し、逮捕された男の裁判記録です。法廷で裁判官から「この件から何か学んだことはあるか?」と問われた男は、うなだれながら次のように答えたと記録されています。
「裁判長、私は学びました。女性が自分を愛していないなら、無理に愛させることなどできないということを」
この男の悲哀に満ちた告白を目にしたマイク・リードは、強い衝撃を受けました。人間の力では決してどうにもならない感情の絶対的な限界が、その短い一言に凝縮されていたからです。リードとシャンブリンはこのフレーズを基に、半年以上もの期間を費やして歌詞とメロディを練り上げました。当初はテンポ感のある楽曲にする案もありましたが、シャンブリンの「この言葉は、最も切ないスローバラードとして歌われるべきだ」という確信により、現在の静寂と叙情性を湛えた構成へと結実しました。
完成したデモテープを聴いたブルース・ロック界の実力派シンガー、ボニー・レイットは即座にレコーディングを決断します。1991年発表の通算11作目のアルバム『Luck of the Draw』に収録された本作は、ピアノにブルース・ホーンズビー(Bruce Hornsby)を迎え、スタジオでのボーカル収録はわずか数テイク、ほぼ一発録りに近い形で emotion をそのまま封じ込めるように行われました。米ビルボードHot 100で最高18位、アダルト・コンテンポラリー・チャートで6位を記録し、彼女のキャリアを決定づける代表曲となりました。