講道館柔道の歴史を語る上で欠かせないのが、明治期に制定された「五教の技(ごきょうのわざ)」です。1895年(明治28年)に制定され、1920年(大正9年)の大改訂を経て現在に伝わるこの教育カリキュラムは、単なる技の羅列ではありませんでした。
嘉納治五郎師範が目指したのは、危険な古流柔術から命に関わる技を排除し、「誰もが安全に、段階的に身体操作と理合を学習できる教育システム」の構築でした。五教の技は、一教から五教まで各8手、合計40手の投げ技で構成されています。
- 一教(8手):出足払、膝車、笹払、浮腰、大外刈、大内刈、背負投、一本背負投など、受け身が取りやすく、基本的な足捌きと崩しを身につける技。
- 二教〜三教:小内刈、払腰、内股、巴投など、回転運動や相手の力を利用する中級技術へステップアップ。
- 四教〜五教:山嵐、裏投、浮落、帯落など、極めて高度な重心制御や捨身の覚悟を要する大技・秘技の領域。
このように、「受けても安全な技」から順を追って学ぶことで、怪我を防ぎながら自然と身体に武道の理合を染み込ませる構造になっています。現在世界100カ国以上に柔道が普及した根底には、この卓越した教授法の存在があったのです。