手結港可動橋の正式名称は、「高知県手結港臨港道路可動橋」。高知県が管理する臨港道路に架かる片開きの跳開式(ちょうかいしき)可動橋です。2002(平成14)年9月に完成したこの橋は、全長約32メートル、重量約32トンに及ぶ巨大な道路桁が、強力な油圧シリンダーによって最大約70度まで押し上げられる構造を持っています。
一般的な可動橋は、普段は道路として車輪を通し、船が近づいた時だけ例外的に跳ね上げる「陸優先」の運用が主流です。しかし手結港可動橋はその真逆を走っています。一日の大半である約17時間は直立したままで、車や歩行者が渡れるのは決まった時間帯の合計約7時間に過ぎません。この極端な運用の背後には、江戸時代から続く手結港固有の地理的・歴史的要因が存在します。
手結港は、土佐藩の家老であり名奉行として知られる野中兼山(のなか けんざん)の指揮により、承応2(1653)年から数年の歳月をかけて開削された「日本最古級の掘込式港湾(ほりこみしきこうわん)」です。岩盤をくり抜いて内海を造り上げた構造上、港の出入口は非常に狭く、水深も限られています。現代になって対岸地区を結ぶバイパス道路の需要が高まったものの、高い橋を架けてしまえば港の出入り口を塞ぎ、マストやキャビンを備えた漁船が通過できなくなってしまいます。
「歴史ある港の形状を守りつつ、漁船の自由な出入港を一切妨げず、なおかつ集落間の物流ルートを確保する」――この相反する難題をクリアするために選ばれた回答が、普段は航路を完全に開放し、必要な時間帯だけ道路を下ろすという、割り切った跳開式可動橋の建設でした。道路が直立している姿こそが、この港における「平常運転」なのです。