では、なぜ四日市花火大会は過去に数年間の開催見送りや中止を余儀なくされ、市民に「打ち切り」を想起させるほどの事態に陥ったのでしょうか。その決定的な理由は、単なる天候不良や感染症対策にとどまらない、港湾インフラ整備と安全対策費用の構造的限界にありました。
最大の要因は、1958年から長年親しまれてきた会場である「霞ヶ浦地区」において、国土交通省および三重県による「四日市霞ヶ浦地区国際物流ターミナル整備事業」が本格始動したことです。この事業は、総事業費約583億円を投じ、2021年度から2030年度までの長期にわたって岸壁やコンテナターミナルを拡張・整備する国家規模のビッグプロジェクトです。
工事エリアの拡大に伴い、従来観覧場所として機能していた広大な敷地や岸壁一帯が立ち入り禁止となりました。花火の打ち上げ場所から観覧客までの保安距離(保全水域・陸上立ち入り制限区域)を十分に確保することが物理的に不可能となり、実行委員会は従来の枠組みでの開催継続を断念せざるを得なくなったのです。
さらに拍車をかけたのが、全国的な雑踏事故の教訓を受けた安全対策・警備費の急騰です。明石歩道橋事故以降、大規模集客イベントに対する警備基準は年々厳格化しており、警備員の配置数や誘導柵の設置、緊急搬送ルートの確保にかかるコストは過去10年で倍増以上となっています。従来の無料開放型フェスティバルでは自治体の持ち出しや地元企業の協賛金だけでは財政的に耐えきれなくなり、「安全を担保できない以上、見送りやむなし」という苦渋の決断が下されました。