日本におけるカレーライスの歴史を紐解く上で、神保町カレー名店の中でも最古参とされるスマトラカレー共栄堂の存在は欠かせません。店舗の歩みは1924年(大正13年)、東洋大学の創始者・井上円了博士とも親交が深かった伊藤友次郎氏が、南洋航路の要衝であったインドネシア・スマトラ島の家庭料理の製法を店主へと伝授したことに端を発します。
当時、日本に普及しつつあったカレーは、イギリス経由で伝わった小麦粉とルウを炒め合わせてとろみをつけた欧風スタイルが主流でした。それに対し、伊藤氏が持ち帰ったカレーは、小麦粉を一切使わず、野菜と肉のブイヨンに多種多様なスパイスを溶け込ませる南洋式でした。このレシピをベースに、日本人の繊細な味覚に調和するよう幾度となく改良を重ねて完成したのが、現在の「スマトラカレー」です。
店内には大正・昭和の文士や学生たちが愛した往時の面影が漂い、現在も「食べログカレー百名店」に選出され続けています。親子三代にわたって通い詰める常連客も珍しくなく、100年の長きにわたりブレることなく守り抜かれたレシピは、日本の洋食文化における貴重な生きた遺産となっています。