鮮魚売り場で「特売品」「お徳用」のシールが貼られがちなビンチョウマグロに対し、「筋っぽくて旨味が薄い」というイメージを持つ人は少なくありません。しかし、水産加工の現場関係者や魚介専門の料理人が口を揃えるのは、ビンチョウマグロが美味しくなる真相は「脂質の低さと繊細な筋繊維の構造」に隠されているという事実です。
本マグロ(クロマグロ)のように身自体に濃厚な脂を蓄える魚種と異なり、ビンチョウマグロは身質が柔らかく、脂肪分が全体に控えめです。店頭に並ぶ解凍サクは、解凍時の温度変化によって細胞膜が傷つき、旨味成分を含む水分(ドリップ)が外へ流れ出やすい性質を持ちます。このドリップが表面に付着したまま空気に触れることで酸化し、「パサつき」と「特有の生臭さ」を生み出していたのです。
科学的なアプローチからビンチョウマグロのパサつき解消理由を解明すると、答えはシンプルです。失われた脂質を調理工程で「外部から補う」こと、そして加熱時に「タンパク質の熱凝固(65度以上で急速に硬化する現象)を起こさせないレア状態」を保つことの2点に集約されます。赤身特有のクセや強い鉄分臭が極めて少ないビンチョウマグロは、ニンニク、醤油、香味野菜、上質なオイルの風味をスポンジのように吸い込む抜群の受容力を持っています。この特性を活かすことこそが、安価な素材を一気に料亭品質へと引き上げる最大の鍵となります。