事の発端は、2016年2月に走った食品業界への激震でした。山崎製パンの子会社であったヤマザキ・ナビスコ(現・ヤマザキビスケット=YBC)が、米大手食品メーカーのモンデリーズ・インターナショナルとの間で46年間にわたり結んでいたライセンス契約を、2016年8月末日をもって終了すると発表したのです。
当時の経済報道各社の取材データを総合すると、契約終了の主因はモンデリーズ側の世界戦略の転換にありました。グローバル規模での自社ブランド直接統括と収益最大化を目指すモンデリーズ側と、日本市場に根差した品質基準や安全性を追求するヤマザキ側の販売方針が乖離した結果、ライセンス契約の更新が見送られる形となったのです。
この結果、「リッツ」「オレオ」「プレミアム」という長年日本人に親しまれた商標はモンデリーズ・ジャパンへと引き揚げられました。しかし、茨城県古河工場に蓄積された世界屈指の製菓技術、生産設備、そして国内流通網はヤマザキ側に残存しました。こうして2016年9月1日、社名をヤマザキビスケット(YBC)へと改称し、社運を賭けて送り出した後継ブランドこそが「ルヴァン(Levain)」でした。
その際、業界関係者の間で最も注目されたのが「沢口靖子の処遇」でした。商標を失ったYBCにとって、40年近くにわたり培った「クラッカー=沢口靖子」という国民的イメージまで失えば、新ブランドの認知獲得は絶望的となります。YBCは新ブランドの立ち上げにあたり、真っ先に沢口靖子へ熱烈なオファーを提示。彼女もまた、長年苦楽を共にしてきた日本の製造現場への深い信頼からオファーを快諾し、広告史に残る「ブランドの魂の継承」が実現したのです。