ネット上では頻繁に「批判されているけれど、これだけ話題になっているのだから炎上商法CM企業の完全な勝利だ」という言説が飛び交います。「悪名は無名に勝る」という古い格言を信じ込み、炎上さえもマーケティングの計算の内だと捉える見解です。しかし、流通現場やコーポレートガバナンスの実態をつぶさに取材すると、この俗説が極めて危うい誤解であることが浮き彫りになります。
第一に、生活密着型商品における「店頭拒絶(リテールボイコット)」の破壊力です。消費財メーカーの場合、商品の成否を握るのはテレビ画面ではなく、スーパーやドラッグストアの棚割りです。視聴者からのクレームが集中した商品に対し、小売チェーンのバイヤーは「顧客トラブルの原因になる」として棚の割り当てを縮小、あるいは完全撤去に踏み切ります。どれほどSNSでバズを起こそうと、購入接点を断たれれば売上は急落します。
第二に、新卒・中途採用市場におけるブランド崩壊です。人事コンサルティング関係者の調査によると、過激な炎上広告を出稿した企業は、直後の採用エントリー数が前年比で30%以上落ち込むケースが珍しくありません。「ムカつくCMを垂れ流している恥ずかしい会社」という烙印を押された企業に対し、求職者やその家族が強い忌避感を示すためです。優秀な人材の採用難は、企業の長期的競争力を内側から蝕んでいきます。
炎上商法が辛うじて成立するのは、リピート購入を前提としない一回限りの情報商材や、怪しげな定期縛りのサプリメントなど、逃げ切り型のビジネスモデルに限られます。持続的な成長を志向する上場企業や伝統的ブランドにとって、不快感を撒き散らすリスクはリターンを遥かに上回る破滅的なギャンブルに過ぎません。