幕末から明治にかけて日本が開国すると、浮世絵は海を渡り、ヨーロッパで空前の「ジャポニスム」旋風を巻き起こします。その波の中で、蛸と海女の海外の反応は熱狂的なものでした。
特に蛸と海女とピカソの影響は美術史において広く知られています。20世紀の巨匠パブロ・ピカソは北斎の春画を熱心に収集しており、『蛸と海女』にインスパイアされた素描や版画を複数残しています。また、彫刻家のオーギュスト・ロダンや、エゴン・シーレ、フェリシアン・ロップスといった世紀末芸術の旗手たちも、北斎が放つ強烈なエロスと構図の大胆さに強い衝撃を受けました。
後にシュルレアリスムを提唱したアンドレ・ブルトンも、無意識の欲望や夢の世界を具現化した先駆的作品として激賞しています。西洋の宗教観や伝統的リアリズムでは絶対に生まれ得なかった「人間と海の魔物との恍惚とした融合」は、西洋近代絵画の常識を根底から揺さぶり、アヴァンギャルドの扉を開く引き金となったのです。さらにこの構図は、現代のSF映画や漫画・アニメにおける「触手描写」の決定的なオリジンとしても世界中で認識されています。