猫は捕食者であると同時に、小型肉食獣として外敵に狙われる被捕食者でもあります。そのため、本能的に弱みや痛みをギリギリまで隠蔽する習性を持ち合わせています。「寝ているだけに見える姿」こそが、限界まで体調不良を耐え忍んでいるシグナルである事実は、獣医学の世界で広く知られています。
慢性腎不全の初期症状と毒素の蓄積
高齢猫が寝てばかりいる理由として、最も遭遇頻度が高い内科疾患が猫の慢性腎不全です。腎機能が壊死・脱落していく過程で、初期段階では目立った苦痛のサインを示しません。しかし、体内に尿毒素が蓄積し始めるにつれて慢性的な吐き気と全身の強い倦怠感が生じ、猫は寝床から動かなくなります。「最近よく眠るようになった」と同時に、「水を飲む量が目に見えて増えた」「薄いオシッコを大量にする」という多飲多尿の症状が併発している場合、腎臓組織の60〜70%以上がすでに破壊されている危険性があります。
脱水症状の見極め方(ツルゴールテストの実施手順)
体調不良で活動性が落ちた猫は、飲水行動自体を億劫がり、急速に脱水に陥ります。脱水は循環血液量を減らし、多臓器不全を誘発する引き金となります。自宅で即座に脱水度合いを判定する手法が「ツルゴールテスト(皮膚つまみ試験)」です。
愛猫の背中や首の後ろの皮膚を指で優しく持ち上げ、パッと手を離します。健康な猫であれば、皮膚の弾力によって1秒未満で瞬時に元の平らな状態へ戻ります。もし皮膚がつまんだ形のままテント状に盛り上がり、平らに戻るまで2秒以上かかる場合は、中等度から重度の脱水状態にあります。歯茎がネバついて乾いていたり、眼球が奥へ落ち窪んでいるように見える場合も脱水の明白な証拠です。
変形性関節症による慢性痛
10歳を超えるシニア猫の8割以上が罹患しているとされるのが、関節軟骨の摩耗に伴う変形性関節症です。痛覚を大声で訴えることは稀で、猫は「動くと痛むから、じっと寝て過ごす」という行動選択をとります。高い場所へ飛び乗らなくなった、階段の昇降をためらう、毛づくろいが疎かになり腰回りの毛がボサボサになっているといった所見は、過眠ではなく運動器系の激痛に起因しているケースが目立ちます。