自分の体を傷つけるのではなく、「体温計の数値だけを偽装したい」と考える人が手を染めがちなのが、測定器への工作です。布団や衣類で激しく擦る、ストーブやドライヤーの温風を当てる、お湯に先端をつけるといった手法が知られていますが、これらにはデジタル機器ならではの致命的な欠陥が存在します。
現代の電子体温計の約9割を占める「予測式体温計」は、測定開始からの温度上昇カーブをマイクロコンピュータがミリ秒単位で解析し、平衡温を予測演算しています。布との摩擦熱やお湯の熱気は、人体の体温上昇曲線とは全く異なる急激な熱変化をもたらすため、体温計の基板が「エラー(Err)」を検知するか、現実には生存不可能な43度以上という異常値を叩き出してしまいます。
さらに、仮病で熱を偽装しても周囲にはあっけなく露呈します。人の身体が38度以上の発熱をしている場合、心拍数は平熱時より1分間に10〜15拍程度増加し、末梢血管の拡張による皮膚の紅潮、呼気の熱感、発汗が生じます。体温計の画面だけが「38.2度」を示していても、養護教諭や上司が額や手首に触れれば皮膚は冷たく、呼吸も穏やかなままです。現代の保健室や企業の医務室では、非接触型赤外線センサーや耳式体温計による再計測が即座に行われるため、測定値の偽装は数分と持たずに暴かれます。