五浦の魅力を余すところなく味わうには、訪れる時間帯の選び方が極めて重要になる。週末の日中は全国からの鑑賞者でロビーや駐車場が賑わいを見せるが、この場所がもっとも神話的な表情を見せるのは、開館直後の午前9時台と、日が傾き始める午後3時以降だ。
午前9時過ぎ、まだ人影のまばらな時間帯に展示室へ入る。外光を計算し尽くした空間設計の中、ガラス窓越しに朝の光を浴びる太平洋と作品を交互に眺める時間は贅沢そのものだ。展示を観終えたら、11時前には敷地内の展望スペースを抜け、遊歩道経由で六角堂へと向かう。日中の混雑の波が押し寄せる前に海辺の散策を終えるのが、通のスマートな回り方である。
また、午後の鑑賞であれば夕刻の西日がお勧めだ。海食崖が茜色に染まり、空と海が紫のグラデーションへと溶け合っていくマジックアワー。この時間帯、美術館のカフェラウンジから見下ろす水平線は、大観の描いた幽玄な水墨画そのものの世界へと変貌する。混雑を巧みに回避することで、五浦の空気感はより深く心に刻まれる。