1983年に公開され、今や映画史に永遠の名を刻む名作『戦場のメリークリスマス』(英題:Merry Christmas, Mr. Lawrence)。第二次世界大戦下のジャワ島にある日本軍俘虜収容所を舞台に、極限状態に置かれた軍人たちの精神の交錯を描いた本作は、映画ビジネス的にもキャスティングの面でも前例のない冒険でした。
本作を語る上で欠かせないのが、坂本龍一とビートたけしの抜擢です。当時、気鋭のミュージシャンとしてYMOで世界的な注目を集めていた坂本龍一に対し、大島は自ら直談判。映画出演など全く頭になかった坂本は「音楽も任せてくれるなら」という破格の逆提案を行い、大島がそれを快諾したことで、あの不朽のメインテーマ「Merry Christmas, Mr. Lawrence」が誕生することになりました。
一方、当時お笑いブームの頂点に君臨していたビートたけしのハラ軍曹役起用も、映画界に大きな衝撃を与えました。撮影現場では怒号が飛び交う「怒声の大島」として恐れられていた監督ですが、驚くべきことに坂本とたけしの2人には一切怒声を浴びせませんでした。当時の回顧録や特番インタビューにおいて、大島は「プロの映画俳優ではない彼らに怒鳴っても萎縮するだけ。彼らの佇まいそのものが欲しかった」と語っており、その代わり周囲の助監督やプロのスタッフが身代わりのように怒鳴られていたという現場の生々しい逸話が残されています。
デヴィッド・ボウイ演じるセリアズが、切腹を命じられた収容所長・世野井(坂本龍一)の頬にキスをするクライマックスは、東洋と西洋、軍国主義と個人の尊厳、そして抑圧されたホモエロティシズムの融解を見事に表現した映画史に残る名シークエンスです。2023年の坂本龍一の逝去を経てなお、この作品が放つ静謐で切ない鎮魂の響きは、世界中の観客の心を捉えて離しません。