原作マンガにおけるサトシは、ラム親衛隊の4人組(メガネ、パーマ、カクガリ、チビ)の一人に過ぎなかった。しかし、TVアニメ版のチーフディレクターを務めた押井守監督の手によって、彼の運命は劇的に塗り替えられる。押井監督は、狂気と哲学が同居するこの男を物語のストーリーテラーであり、同時に「アジテーター」として再定義したのだ。
画面に向かって唐突に始まる長尺の独白。文学的かつ大げさな言いまわしで愛を語り、国家や世界観すらも巻き込む虚妄の大演説。これらは押井演出の代名詞となり、本来の主人公である諸星あたる以上の存在感を発揮することも珍しくなかった。制作現場での試行錯誤と自由な空気感が、一人のモブキャラクターを「作中最も危険で愛おしい男」へと押し上げた瞬間である。