金沢の市街地中心部に位置する長町は、江戸時代に加賀藩の重臣や上中級の加賀藩士が居を構えた格式高い屋敷町でした。加賀藩の祖・前田利家が金沢城に入城して以来、城下町の防衛と身分秩序の確立を目的に武家町が整備され、その骨格が現代にまで奇跡的に受け継がれています。
散策時にまず目を奪われるのが、幾重にも連なる黄土色の土塀です。この土塀は、粘土に藁や小石を混ぜて突き固め、瓦屋根を載せた伝統的な「版築(はんちく)」の手法で作られています。敵の侵入を防ぐ強固な防壁としての役割を果たしながら、格式ある屋敷街の統一美を創出しています。また、屋敷の境界には「武家窓」と呼ばれる格子窓や長屋門が残り、当時の武士の格式に応じた建築様式を今に伝えています。
さらに長町を象徴するのが、屋敷群の間を縫うように流れる大野庄用水です。金沢最古の用水とされる大野庄用水は、犀川から水を引き、城の防御、物資の舟運、防火、そして武家屋敷の庭園への引き水や生活用水として多目的に活用されてきました。現在もさらさらと流れる清流の音は、耳に心地よい風情を添えています。
冬期(毎年12月初旬から翌年3月中旬頃)に訪れる旅行者を魅了するのが、金沢の冬の風物詩である「こも掛け」です。雪の水分や凍結による土塀の剥落・崩壊を防ぐため、藁で編んだ「こも」を職人たちが手作業で土塀に掛けていきます。雪吊りと並び、厳しい北陸の冬を乗り越える先人の知恵が景観美へと昇華した瞬間であり、冬期ならではの情緒あふれる写真撮影スポットとして親しまれています。