草むらの中で異彩を放つ「ピンクのバッタ」ですが、厳密な昆虫分類学の視点から観察すると、その多くはバッタ科ではなくキリギリス科の「クビキリギス」や「ササキリモドキ」、あるいはバッタ科の「ショウリョウバッタ」「ヒナバッタ」などの幼虫・成虫です。特に春先から初夏、そして秋口にかけて目撃証言が集中します。
この特異な体色を生み出す決定的な要因は、「エリスリズム(Erythrism=赤色症)」と呼ばれる遺伝的な突然変異です。通常、バッタやキリギリスの体色は、天敵から身を隠す保護色として機能する「緑色色素(ビリベルジンなど)」や「黒・褐色色素(メラニン)」のバランスによって決まります。しかし、遺伝子の変異によって黒色や緑色の合成系が阻害され、代わりに赤色系のオモクロームやカロテノイド系の色素が過剰に発現・蓄積することで、全身が鮮やかなピンク色へと変化します。
博物館の学芸員や昆虫学者への取材によると、エリスリズム自体は哺乳類や鳥類、魚類にも見られる普遍的な遺伝変異の一種です。しかし、植物の葉と同化することで身を守る昆虫にとって、ピンク色の体色は天敵である鳥類や肉食昆虫に対して自らの居場所をアピールする結果となります。そのため、人目に触れる段階まで成長できる個体は極めて限定的です。