中西保志の『最後の雨』における歌詞の意味を探る上で、避けて通れないのが「綺麗事ではない男性の脆さと身勝手さの告白」という視点です。J-POPの失恋ソングには「相手の幸せを願って身を引く」という美談が多く見られますが、本作の主人公は全く異なる葛藤を見せます。
特に象徴的なのが、サビで歌われる「本気で忘れるくらいなら 泣けるほど愛したりしない」「誰かの腕に抱かれる君を 許せるはずがない」というフレーズです。心理学的な観点から見れば、これは典型的な「喪失に対する防衛機制」と「強い執着心」の表れです。相手の幸福を純粋に祈りたい理性と、他の誰かのものになってほしくないという本能的な独占欲の間で激しく引き裂かれる男性の心理が、雨という情景描写と共に鮮明に描き出されています。
また、「言葉にできないのが愛さ 言葉では君を繋げない」という一節には、コミュニケーションの限界に対する絶望と、それでもなお通じ合いたいと願う切実な祈りが込められています。バブル崩壊後の急激な社会変化の中で、自らのアイデンティティや他者との絆に揺らぎを感じていた当時のリスナーにとって、この赤裸々なまでの心の叫びは、自己を投影する格好の拠り所となったのです。