哀愁漂う日本の唱歌としてのイメージとは裏腹に、原曲となったスコットランド民謡『Comin Thro the Rye(ライ麦畑を通って)』は、まったく異なる陽気で艶やかな恋の歌です。スコットランドの国民的詩人ロバート・バーンズが採譜・作詩した民謡として知られています。
原曲の歌詞(Comin Thro the Rye)をおおまかに和訳すると、「ライ麦畑を通るときに誰かと誰かが出会って、もしキスをしたとしても、周りにとがめられる筋合いはないじゃないか」という、若者たちの奔放な逢瀬を描いた内容です。背の高いライ麦が生い茂る畑は、人目を忍ぶ恋人たちの格好の隠れ場所でした。明治の教育者たちは、この軽快なリズムを活かしつつも、教育的配慮から親を思う望郷の詩へと大胆に翻案したわけです。
また、この原曲は20世紀のアメリカ文学を代表するJ.D.サリンジャーの傑作小説『ライ麦畑でつかまえて(The Catcher in the Rye)』のタイトルの由来としても極めて有名です。主人公ホールデン・コールフィールドが、子どもたちがライ麦畑の崖から落ちないように見守る「つかまえ役」になりたいと願う場面は、彼がこのスコットランド民謡の歌詞を少し勘違いして記憶していたことに端を発しています。