1990年代半ば、日本のメンズファッションとカルチャーシーンに地殻変動が起きました。その震源地にいたのが、当時20代前半だったいしだ壱成です。従来の「男らしさ」「男臭さ」を誇示する男性像を軽やかに脱ぎ捨て、タイトなレディースサイズのチビTシャツ、ベレー帽、細身のカラーパンツ、ヴィンテージのシルバーアクセサリーを身にまとう彼のスタイルは、ストリート誌『CUTiE』や『Zipper』『MEN'S NON-NO』を通じて瞬く間に全国の若者へ波及しました。
当時、同じく中性的な魅力で人気を二分していた武田真治とともに、メディアはこのムーブメントを「フェミ男(フェミおとこ)」と命名。中性的で華奢な体躯、透き通るような白い肌、アンニュイな眼差し、そしてどこか壊れそうな透明感を宿した彼のルックスは、現代のK-POPアイドルやジェンダーレス男子の源流とも言える完成度を誇っていました。
特筆すべきは、彼のファッションが単なるスタイリストによる着せ替えではなく、本人の音楽的バックボーンやUKロック、アシッドジャズ、クラブカルチャーといった海外のアンダーグラウンド文化に根ざしていた点です。自身もバンド「THE BIG BAND!!」のフロントマンやDJとして活動し、カルチャーの最先端を体現していたからこそ、若者たちは彼の一挙手一投足に熱狂しました。