ネット上で語り継がれる「日本中のマンガがすべて揃っている」という言説の根拠は、国立国会図書館法に規定された法定納本制度マンガの収集義務にあります。出版元に対し、国内で発行された出版物を国会図書館へ納入することを法的に義務付けているこの制度により、同館は1948年の開館以降に商業出版された単行本やマンガ雑誌を膨大な規模で保存し続けています。公式のリサーチ・ナビでも「国内で刊行されたマンガ(図書、雑誌など)のほか、外国で翻訳・刊行された日本のマンガについても一部を所蔵している」と明記されており、日本マンガの世界的広がりまで視野に入れた網羅性は国家機関ならではの規模です。
とりわけ商業ルートから姿を消した国会図書館マンガ絶版作品の追跡において、国会図書館の右に出る機関はありません。電子書籍化もされず、フリマアプリでも滅多に出回らない昭和〜平成初期のマイナー作品や、連載打ち切りにより極少部数しか印刷されなかった単行本であっても、ISBNが付与された商業出版物であれば、その大部分が地下深くの書架に眠っています。
しかし、ここで極めて重要な「制度の盲点」が存在します。法的な納本義務があるとはいえ、罰則規定が極めて限定的であるため、納本率は完全に100%とは言えません。特に昭和30年代〜40年代の「貸本漫画」専門レーベルや、零細出版社が手掛けた初期の成年コミック、あるいは流通ルートに乗らなかった地方出版物には未納本の欠落が存在します。「日本に存在するマンガが漏れなくすべて読める」という言説は、文化的理想を反映した誇張であり、正しくは「戦後の商業マンガの約9割以上を網羅する、国内最後のセーフティネット」と捉えるのが正確な実態です。