「滋賀には琵琶湖しかない」というネット上の言説は、地理的にも歴史的にも明らかな誤認です。滋賀県総面積約4,017平方キロメートルのうち、琵琶湖が占める面積はおよそ670平方キロメートルであり、全体の約6分の1に過ぎません。残りの大部分は鈴鹿山脈や比良山地をはじめとする山林、そして豊かな田園地帯と近江商人が拓いた旧街道沿いの町並みで構成されています。
観光庁および滋賀県観光振興課が発表した動態調査を精査すると、県内を訪れる観光客の動機は「水辺の景観鑑賞」にとどまりません。歴史・文化財の探訪が全体の約4割を占め、続いて「食体験(ご当地グルメ)」が急伸しています。特に京都と北陸、中京圏を結ぶ要衝として栄えた背景から、国宝や重要文化財の指定件数は全国屈指の集積度を誇ります。広大な自然景観と高密度な歴史遺産がシームレスに同居している点こそ、滋賀県観光の真の独自性です。
取材班が現地で耳にしたベテラン観光ボランティアの言葉が印象的です。「京都は点から点へ移動する観光になりがちですが、近江(滋賀)は街道と山水が一体となった“面”の広がりを体感する場所。琵琶湖はその雄大な借景であり、主役を彩る舞台装置なのです」。湖面を遠望しながら歴史の息吹に触れる旅のあり方は、情報過多な日常に疲弊した現代人のメンタルを回復させるリトリートとしても再評価されています。