医療従事者や皮膚科専門医がスカリフィケーションに対して強く警鐘を鳴らし続ける理由は、感染症の危険性と体質による破滅的な結果にあります。
広範囲に皮膚バリアを破壊する施術であるため、感染症リスクは一般的なピアッシングやタトゥーの比ではありません。施術環境の滅菌不全や術後の不衛生な管理によって、黄色ブドウ球菌や溶連菌が深部に侵入すると、皮膚深層が広範囲に壊死する「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」や、細菌が血流に乗って全身に回る「敗血症」を引き起こし、多臓器不全により命を脅かす事態に直結します。器具の使い回しがあれば、B型・C型肝炎やHIVなどの血液媒介感染症のリスクも跳ね上がります。
さらに予期せぬ悲劇を生むのがケロイド体質のリスクです。皮膚科領域において、傷跡の盛り上がりには以下の2種類が厳格に区別されます。
- 肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん):傷口の範囲内にとどまって赤く盛り上がり、時間をかけて数年単位で徐々に落ち着く良性の組織増殖。スカリフィケーションが理想とするのはこの状態です。
- 真性ケロイド(ケロイド症):遺伝的な素因を持つ人が発症しやすく、傷口の境界線を大きく越えて周囲の正常な皮膚を破壊しながら腫瘍のように赤黒く増殖し続ける病態。激しい疼痛や耐え難い掻痒(かゆみ)を伴います。
自身がケロイド体質であることを知らずにスカリフィケーションを受けた場合、繊細にデザインされたはずの図柄は崩壊し、赤く醜く盛り上がった肉の塊へと変貌します。真性ケロイドへ移行してしまえば、ステロイド局所注射や放射線治療を長期にわたって受け続けなければならず、デザインの破綻どころか一生涯の機能障害と肉体的苦痛を抱え込むことになります。